OpenAIは2026年5月7日、ChatGPTに「Trusted Contact(信頼できる連絡先)」という任意の安全機能を追加すると発表しました。自傷リスクが疑われる深刻な会話が検出された場合に、あらかじめ選んだ信頼できる相手へ通知する仕組みです。ただし、会話の全文を共有する機能ではなく、緊急サービスや医療の代替でもありません。この記事では、仕組み、通知条件、プライバシー、既存機能との違い、設定前に確認すべき注意点を整理します。
ChatGPT Trusted Contactとは何か
ChatGPT Trusted Contactとは、ChatGPTの成人ユーザーが、自分で選んだ1人の相手を「信頼できる連絡先」として登録できる安全機能です。OpenAIの公式発表では、ユーザーが自分を傷つける可能性を示す深刻な会話をしていると、自動システムと訓練済みレビュー担当者が判断した場合に、その連絡先へ短い通知を送る可能性があると説明されています。
重要なのは、この機能が「監視したい相手を登録する機能」ではなく、本人が事前に選ぶ任意の支援機能である点です。登録された相手も、招待を受け取って役割を確認し、承諾しなければ有効になりません。OpenAIは、Trusted ContactをChatGPT内の相談窓口案内などと並ぶ安全対策の一部として位置づけています。
公式情報は、OpenAIの発表記事「Introducing Trusted Contact in ChatGPT」と、ヘルプセンターの「Trusted contacts in ChatGPT」で確認できます。
何が発表されたのか
OpenAIは2026年5月7日、個人向けChatGPTアカウントを持つ成人ユーザー向けに、Trusted Contactを順次提供すると発表しました。リリースノートでも、今後数週間かけて展開される任意機能であり、対象は対応地域の個人向けChatGPTアカウントだと説明されています。
設定はChatGPTの「Settings > Trusted contact」から行う仕組みです。対象アカウントごとに登録できる連絡先は1人で、登録相手は18歳以上である必要があります。韓国では年齢要件が19歳以上とされています。Business、Enterprise、Eduなどの共有ワークスペースでは、現時点でこの機能は有効化されていません。
登録時には、信頼できる連絡先の氏名とメールアドレスが必要です。電話番号は任意ですが、OpenAIはメールと電話番号の両方を提供することを推奨しています。招待はメール、SMS、WhatsApp、ChatGPTアプリ内メッセージなどで届く場合があり、相手が1週間以内に承諾すると機能が有効になります。
通知される条件はかなり限定されている
Trusted Contactで最も気になるのは、「どんな会話をしたら相手に通知されるのか」という点です。OpenAIの説明では、対象になるのは、ユーザーが自殺について話しており、しかも深刻な安全上の懸念を示す可能性があると判断される場合です。単に気分が落ち込んでいる、悩みを相談している、メンタルヘルスについて一般的に話しているだけで、必ず通知されるという説明ではありません。
流れは大きく4段階です。まず、ユーザーが信頼できる連絡先を1人選びます。次に、その相手が招待を承諾します。その後、ChatGPTの自動監視システムが深刻な安全上の懸念を示す会話を検出した場合、訓練を受けた人間のレビュー担当者が状況を確認します。最終的に、深刻な安全状況の可能性があると判断された場合に、連絡先へ短い通知が送られる可能性があります。
OpenAIは、通知が送られる前にユーザーへ「信頼できる連絡先に通知する可能性がある」と知らせると説明しています。また、通知前には必ず人間によるレビューが入るとされており、公式発表では、こうした安全通知を1時間以内にレビューするよう努めるとされています。
この機能で何ができるようになるのか
従来のChatGPTにも、深刻な自傷リスクがある会話に対して、危機ホットライン、緊急サービス、メンタルヘルス専門家、身近な人への相談を促す安全応答はありました。これに対してTrusted Contactは、ユーザーが危機的な状態にある可能性があるとき、事前に選んだ現実の人物との接点を作る点が新しい部分です。
これまでの安全応答は、基本的にはChatGPTがユーザー本人へ支援先を提示する形でした。しかし、本人が追い詰められているときには、自分から誰かへ連絡することが難しい場合があります。Trusted Contactは、その「自分から助けを求めるハードル」を少し下げるための設計といえます。
たとえば、ユーザーが普段から支えてくれる家族、親しい友人、ケアに関わる人を登録しておけば、深刻な懸念が検出されたときに、その人へ「様子を確認してほしい」という趣旨の通知が届きます。通知を受けた人は、会話内容を読むのではなく、ユーザーへ直接連絡し、話を聞いたり、必要に応じて追加の支援につなげたりする役割を担います。
一方で、これは救急通報や専門的な危機介入を自動化する機能ではありません。OpenAIも、Trusted Contactは緊急サービス、危機対応システム、メンタルヘルスケアの代替ではないと明記しています。差し迫った危険がある場合は、地域の緊急サービスや危機対応窓口に連絡する必要があります。
共有される情報と共有されない情報
Trusted Contactでは、プライバシー面の理解が特に重要です。連絡先を追加した時点で、相手に届く招待にはユーザーの名前とメールアドレスが含まれます。これは、相手が誰から招待されたのかを確認し、必要に応じて本人へ連絡できるようにするためです。
その後、深刻な安全上の懸念に関する通知が送られる場合、通知には「ユーザーがChatGPTで自殺について話し、深刻な安全上の懸念を示している可能性がある」という一般的な理由が含まれます。ただし、OpenAIのヘルプセンターは、チャットの詳細や会話の全文は共有されないと説明しています。
つまり、Trusted Contactは「会話を見守る権限」を相手に渡す機能ではありません。相手に共有されるのは、ユーザーのすべての相談内容ではなく、深刻な安全上の懸念が検出された可能性を知らせる限定的な通知です。ここは、導入を考えるうえで大きな判断材料になります。
一方で、OpenAI側では自動システムに加えて人間のレビュー担当者が一部会話を確認する可能性があります。これは通知判断のためのプロセスですが、「ChatGPT内でどこまで人間レビューが入る可能性があるのか」を気にするユーザーにとっては、設定前に理解しておきたい点です。
既存競合との比較
Trusted Contactは、単体で見るよりも、既存の安全機能や代替手段と比較したほうが役割が分かりやすくなります。ここでは、ChatGPTのペアレンタル通知、危機ホットライン・緊急サービス、従来のChatGPT安全応答と比較します。
| 比較対象 | 主な対象 | 通知・支援の仕組み | プライバシー | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| Trusted Contact | 成人の個人向けChatGPTユーザー | 自動検出と人間レビューを経て、本人が選んだ1人へ通知する可能性がある | 会話全文やチャット詳細は共有されない | 信頼できる相手と事前に支援体制を作っておきたい場合 | 緊急サービスや医療の代替ではない |
| ChatGPTのペアレンタル通知 | 保護者とリンクした10代ユーザー | 保護者が安全通知を受け取れる場合がある | 保護者は通常、子どもの会話そのものへアクセスしない | 家庭内で未成年の利用を見守りたい場合 | 親子のアカウント連携が前提 |
| 危機ホットライン・緊急サービス | 差し迫った危険がある人 | 専門家や公的機関などが直接対応する | 利用先の制度や地域によって異なる | 今すぐ安全確保が必要な場合 | Trusted Contactでは代替できない |
| 従来のChatGPT安全応答 | ChatGPT利用者全般 | 危機窓口や身近な人への相談を促す | 外部の相手へ通知する仕組みではない | 本人が自分で支援先へつながれる場合 | 本人が誰かに連絡できない状態では限界がある |
価格面では、OpenAIはTrusted Contactを追加料金のある有料機能としては説明していません。ただし、利用できるアカウント、地域、展開状況には制限があります。導入しやすさでは、個人アカウントの設定画面から登録できる点はシンプルですが、相手との事前合意や招待承諾が必要なため、単なるオン・オフ設定よりも慎重な準備が求められます。
性能や精度の観点では、OpenAI自身も「完璧なシステムではない」と説明しています。深刻な懸念を見逃す可能性もあれば、通知が必ずしも本人の実際の状態を正確に反映しない可能性もあります。そのため、Trusted Contactは「安全性を高める補助線」であり、「リスクをゼロにする仕組み」ではありません。
懸念点・注意点
最大の注意点は、Trusted Contactを緊急対応機能と誤解しないことです。通知を受ける相手は、専門家でも救急機関でもない可能性があります。仕事中、睡眠中、通信環境のない場所など、すぐに反応できない状況もありえます。差し迫った危険がある場合は、地域の緊急サービスや専門窓口へ直接つながる必要があります。
次に、通知の精度には限界があります。OpenAIは人間レビューを挟むと説明していますが、会話だけで本人の状態を完全に判断することはできません。通知が届いたとしても、それが現在の状況を完全に表しているとは限らず、逆に通知が届かないから安全だとも言い切れません。
プライバシー面では、会話の全文は共有されない一方、登録した相手には招待時に名前とメールアドレスが共有されます。また、安全通知が送られた場合には、自殺に関する深刻な懸念が検出された可能性があることが伝わります。この情報だけでも非常にセンシティブなため、誰を登録するかは慎重に考えるべきです。
運用面では、相手と事前に話し合うことが欠かせません。突然「信頼できる連絡先」への招待が届くと、相手が戸惑う可能性があります。OpenAIの管理ガイドでも、登録前に相手と話し合い、どのようなサポートが助けになるかを確認することが勧められています。
導入メリットを得やすい人・組織
向いている人
Trusted Contactが特に向いているのは、つらい状態になったときに自分から助けを求めるのが難しいと感じている人です。普段は相談できる相手がいても、危機的な場面では連絡する気力が出ない、言葉にするのが難しい、相手に迷惑をかけるのではないかと感じてしまう人にとって、事前に支援の入口を作っておく意味があります。
また、信頼できる家族や友人、ケアに関わる人と、あらかじめ「困ったときはこう連絡してほしい」と話し合える人にも向いています。この機能は、登録すれば自動的に安全になるものではなく、相手との関係性や合意があって初めて効果を発揮しやすくなります。
メンタルヘルスの専門支援を受けている人が、医療や相談支援の代替ではなく、日常の支援ネットワークの一部として使うケースも考えられます。たとえば、専門家への相談と並行して、身近な人に早めに気づいてもらう補助線として活用する形です。
現時点では向いていない人
一方で、登録したい相手との関係が不安定な場合や、通知が届いたことで関係性が悪化する懸念がある場合は、慎重に考えるべきです。信頼できる連絡先には、少なくとも思いやりを持って連絡してくれる相手、秘密や境界線を尊重できる相手を選ぶ必要があります。
また、緊急時の直接対応を期待している場合にも向きません。Trusted Contactは、本人と信頼できる人をつなぐ補助機能であって、救急通報、危機対応ホットライン、医療機関の代わりにはなりません。すでに差し迫った危険がある人や、24時間の専門対応が必要な状態では、この機能だけに頼るべきではありません。
企業や学校などの組織が、従業員や学生のリスク管理として導入する用途にも現時点では適していません。Business、Enterprise、Eduの共有ワークスペースでは利用できず、本人が任意で設定する個人向け機能だからです。組織的な安全管理や福利厚生として使うには、制度設計や同意、プライバシー対応の面で別の枠組みが必要になります。
実務導入を判断する際のポイント
まず確認したい前提条件
設定前に確認したいのは、対象アカウントで機能が利用できるか、本人が18歳以上か、登録したい相手が18歳以上か、そして相手が招待を承諾する意思を持っているかです。新規ユーザーや一部アカウントでは、設定画面や会話内にまだ表示されない可能性があります。
さらに重要なのは、登録する相手と事前に話せるかどうかです。通知が届いた場合に、電話がよいのか、メッセージがよいのか、まず何と声をかけてほしいのか、どの支援先につなぐとよいのかを話しておくと、実際に通知が起きた場合の混乱を減らせます。
導入判断で見るべきポイント
1つ目は、プライバシーの許容度です。会話全文は共有されないものの、深刻な自殺リスクが疑われた可能性は相手に伝わります。この情報を知ってもらってよい相手かどうかを、本人が納得して選ぶ必要があります。
2つ目は、相手の対応力です。信頼できる連絡先は、カウンセラーや危機対応者である必要はありません。しかし、落ち着いて連絡を取り、話を聞き、必要なら専門窓口や緊急サービスにつなげる姿勢は求められます。相手に過度な責任を背負わせないためにも、役割の範囲を共有しておくことが大切です。
3つ目は、代替手段の有無です。Trusted Contactだけでなく、地域の相談窓口、主治医、カウンセラー、家族、友人、緊急連絡先など、複数の支援経路を持っているかを確認しましょう。単一の機能に依存すると、相手が反応できない場合に支援が途切れる可能性があります。
4つ目は、誤検知や見逃しを前提にできるかです。AIと人間レビューを組み合わせても、本人の状況を完全に判断することはできません。通知が届くかどうかを安全判断の唯一の基準にせず、日常的な支援や専門的なケアと組み合わせる必要があります。
試験導入から本格利用までの見方
実際に使う場合は、まず1人の相手と丁寧に話し、招待を承諾してもらうところから始めるのが現実的です。その後、通知が届いた場合の対応を簡単にメモしておくとよいでしょう。たとえば「まず短いメッセージを送る」「返信がなければ電話する」「緊急性が高いと感じたら専門窓口へ相談する」といった流れです。
本格的に頼るというより、日常の支援ネットワークに1本の補助線を足すと考えるほうが安全です。OpenAIのヘルプでも、信頼できる連絡先は唯一の支援者ではなく、より広い支援ネットワークの一部だと説明されています。
導入を急がなくてよいケース
信頼できる相手がまだ決まっていない場合、相手に説明する準備ができていない場合、または通知によってかえって不安や対人トラブルが増える可能性がある場合は、急いで設定しなくてもよいでしょう。まずは相談窓口、医療機関、身近な支援者など、より直接的で安定した支援経路を整えることが優先されます。
よくある質問
ChatGPT Trusted Contactは誰でも使えますか?
現時点では、対応地域の個人向けChatGPTアカウントを持つ成人ユーザー向けに順次提供されています。年齢要件は通常18歳以上で、韓国では19歳以上です。Business、Enterprise、Eduなどの共有ワークスペースでは利用できません。設定画面に表示されない場合は、まだ自分のアカウントに展開されていない可能性があります。
信頼できる連絡先は何人まで登録できますか?
OpenAIのヘルプセンターでは、対象アカウントごとに登録できる信頼できる連絡先は1人と説明されています。複数人へ同時に通知する仕組みではありません。そのため、誰を登録するかは慎重に選ぶ必要があります。普段から連絡が取りやすく、困難な状況でも思いやりを持って対応してくれる相手が望ましいでしょう。
ChatGPTの会話内容は相手に見られますか?
いいえ。OpenAIは、信頼できる連絡先にチャットの詳細や会話の全文は共有しないと説明しています。通知される場合も、共有されるのは「自殺に関する深刻な安全上の懸念が検出された可能性がある」という一般的な理由です。ただし、その事実自体が非常にセンシティブな情報であるため、登録相手は慎重に選ぶ必要があります。
通知は自動で即座に送られるのですか?
公式説明では、自動システムが深刻な安全上の懸念を検出した後、訓練を受けた人間のレビュー担当者が状況を確認するとされています。つまり、単純なキーワード検出だけで即座に相手へ通知される仕組みではありません。ただし、どのような基準で最終判断されるかの詳細は公開されていません。
未成年の場合はTrusted Contactを使えますか?
Trusted Contactは成人向けの機能です。未成年のユーザーについては、OpenAIが別途提供するChatGPTのペアレンタルコントロールが関連機能になります。保護者と10代ユーザーのアカウントをリンクすると、保護者が一部設定を管理したり、特定の深刻な安全状況で通知を受け取ったりできる場合があります。
信頼できる連絡先になると責任を負うことになりますか?
OpenAIは、信頼できる連絡先がカウンセラー、危機対応者、唯一の支援者になることを求めているわけではないと説明しています。役割は、相手の様子を確認し、話を聞き、必要に応じて追加の支援につなげることです。差し迫った危険があると感じた場合は、地域の緊急サービスや危機対応窓口への連絡が必要です。
設定したあとで削除や変更はできますか?
はい。OpenAIの管理ガイドでは、ChatGPTの「Settings > Trusted contact」から削除や再追加ができると説明されています。連絡先情報を変更する場合は、一度削除して再度追加する流れになり、相手には新しい招待が届きます。相手側も、参加を望まない場合は招待を辞退したり、後から登録解除を求めたりできます。
まとめ
ChatGPT Trusted Contactは、ChatGPTの安全対策を「画面内の注意喚起」から「現実の信頼関係」へつなげるための新機能です。深刻な自傷リスクが疑われる場合に、本人が事前に選んだ1人へ限定的な通知を送ることで、孤立しやすい場面での接点を作ろうとしています。
一方で、この機能は緊急サービスやメンタルヘルスケアの代替ではありません。会話内容が相手に共有されない設計はプライバシー面で重要ですが、自動検出や人間レビューにも限界があります。導入するなら、登録相手と事前に話し合い、通知が届いた場合の連絡方法や支援先を決めておくことが大切です。
今後見るべきポイントは、提供地域や対象アカウントの拡大、通知精度への評価、ユーザーと連絡先双方のプライバシー保護、そして実際に支援へつながる運用ができるかです。AIの安全機能としては前進ですが、過度に頼りすぎず、人間関係と専門支援を補完する仕組みとして理解するのが現実的です。


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